科研費H19報告書
熱帯地域の都市近郊農業地帯における化学物質の生態環境動態と管理システムの改善
数回、タイ、バンコックにある日本-タイ共同出資の農薬会社 TJC Chemical Co. Ltd.を訪問し、タイにおける農薬状況についての情報を得た。また、バンコック近郊農家において、使用されている化学肥料や農薬、および、農薬原液の希釈方法、畑への散布方法など、詳細な聞き取り調査を行った。そして、畑地の土壌を採取し、土壌中に含まれる残留農薬の分析を行った。その結果、アスパラガ ス畑など主に輸出用野菜を栽培している畑土からはほとんど残留農薬が検出されなかったが、国内向けの野菜を栽培している畑土で、4日前にアバメクチンを含む混合農薬を散布した畑土から、残留農薬が検出された。しかし、10日前にアバメクチン散布を行った別の畑からは残留農薬は検出されなかった。河川水中の農薬分析も試みたが、近年の農薬は水中ですみやかに分解するため、水中の農薬残留をモニターするのは困難であった。従って、今回の研究では土壌中の農薬に焦点を絞った。また、高毒性であるが、タイでよく使用されている殺虫剤、アバメクチンの容器内分解試験を行った。採取したバンコック近郊の畑土を用いて、標準温度25℃とバンコックの平均気温35℃で試験したところ、アバメクチンの半減期はいずれも数日で、35℃の方が分解はやや早かった。しかも、10日でほぼ10%程度に分解されることがわかった。アバメクチンに関しては、容器内分解試験の結果と現地における畑土中の残留農薬分析の結果に整合性があり、適切な方法で散布されていれば、環境中の残留農薬はほぼ問題ないことがわかったが、その他の農薬の半減期はアバメクチンより長いため、特に、今回、残留農 薬が検出された地域では、今後の経過観察が必要である。農薬の調査には微妙な問題点が含まれているため、研究が思ったほどには進行しなかった。しかし、人の健康と生態系保存の観点から、ここで得られた結果はきわめて貴重である。
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